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大道芸ブームのなかで見た、あるシーン
2008年11月06日 14:49 更新

■静岡市で「大道芸ワールドカップin静岡2008」が開催されたばかりだが、この催しは今や静岡市でも最大級のイベントとして定着し、市民をはじめ県の内外から大勢の観客を集めている。ほかにも横浜(野毛から市内域に拡大)や大須(名古屋市)での大道芸の祭典もすっかり定着して日本中に知れわたっており、もはや大道芸の人気は全国区であり一大ブームの様相を呈していると言える。また、この大道芸ブームに貢献をはたした東京都のヘブンアーティストもいまではすっかり都民にお馴染みのものとなっている。

■先日、ある駅前通りの商店街で女性の大道芸人がいきなり歩道寄りの車道で演技をはじめるシーンに出くわした。平日の午後である。走る自動車の数はそう多くはないものの車も自転車も走るし、歩道を人が行き交う。

■「ええっ、どうしてこの商店街の(こんな場所で)大道芸をやるの?」と驚きつつ、「ついに、来るところまできたか」とも、思った。

■ヘブンアーティスト制度ができる以前、道交法の関係で大道芸人と警察はいたちごっこを繰り返していた。制度ができたことで、都の有数の公園や主だった通りでのパフォーマンスが可能になり、大道芸人や大道芸人を目指す人は果敢に資格取得に挑んだ。そして都民にお馴染みになったのである。

■だが待てよ、である。以前、大道芸の世界では名のある芸人さんから聞いたことがある。ヘブンアーティスト制度が導入されたのはいい。そのことで大道芸が社会的に認知されて芸人は喜んでるし、芸人が増え芸人を目指す人も増えたという。

■ところがいま、起こるべくして起きている見逃せない事態が出来(しゅったい)しているというのだ。芸の上手な人はともかく、総じて芸人の芸が拙くなったという。つまり大道芸人としてどこまでがプロでどこまでがアマなのかの芸事の線引きの自覚もなく演じている芸人が増えているというのだ。

■それでも芸人として食べている(あるいは食べていきたい)という誇りを抱いているからか、彼らは芸人としての仕事を取りたがり、あるいは取るのだという。各方面から芸人としてお呼びがかかる場でのことである。問題はそこで起きる。

■喰うためには仕事が欲しい。しかし芸がつたない。仕事の獲得競争もあり、なりゆきで芸を安く売ることになる。そうなのだ。芸に価格競争の値崩れが起きているのだという。これは結果として業界の、そして自分たちの首を絞めることになる、と指摘する。一方に「凄い!」とばかりに驚くほどの芸を披露する一流どころが集まる大道芸の祭典がありヘブンアーティストの制度があれば、他方ではつたない芸で仕事を取ることで業界をおとしめている。

■ヘブンアーティストの第一回目の審査の時、東京都庁前広場での審査風景を見物したことがある。放浪芸にくわしい俳優の小沢昭一さんや野毛の大道芸を仕掛けた方などがカンカン照りのもとで汗水垂らしながら審査をやっていた。審査員から、これで大道芸も脚光を浴びることになる、というような発言を聞いた。

■ところが、己の首を絞めるようなことが現実に起きている。駅前通りの路上で見たのはその一端であり、それで「来るところまできたか」と思ったのだ。常識的にはどうみても大道芸人が演じる場でないようなところで演技をするという行為。なによりもそれだけの賑わいがある場ではない。確かに賑わいのある街場では、警察に無届けで人気を集めている大道芸人を見かける。それはおそらく警察もお目こぼしのところもあろうし、見ている人たちも野暮なことは言わずに愉しんでいる。

■脚光を浴びている大道芸ブームの中、駅前通りの路上でちょっと考えさせられた。大道芸のプロとアマの線引きってどこにあるのだろうか。そして大道芸を見せる、大道芸で稼ぐとはどういうことか――それって簡単そうで、容易に答えはでてこない。


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