■一昨日の17日(日)に終わったばかりの夏の「コミケ74」(コミックマーケットのことで、マンガやアニメ作品の同人誌即売会/開催は15日~17日)は最終日だけで20万人を集め、3日間の通しで07年の夏の「コミケ72」と並ぶ最高の55万人(参加サークル約1万1千)が参加する盛況ぶりだった。そしていま、こうしたアニメやマンガのキャラクター人気におんぶしての地域興しも各地で盛んだ。
■有名なところではゲゲゲの鬼太郎の鳥取県境港市、鉄腕アトムの東京・高田馬場などがあげられるが、その地域興しに新たにまた絶大な人気を誇ったアニメ「ラキ☆スタ」が加わり、その舞台の一つとなった埼玉県鷲宮町の鷲宮神社にファンが訪れ、今やアニメの聖地と化している。しかもここにきて鷲宮町商工会は北海道大学観光学高等研究センターと手を組み、「メディアコンテンツと観光振興(まちおこし)」と題した共同研究にまで乗り出している。
■「ラキ☆スタ」の舞台となった鷲宮神社といっても、アニメでは登場人物である4人組女子高生のうちの二人の姉妹の家の設定(父親が宮司)が、この神社をモデルにした神社ということになっているというだけなのだが、そこは爆発的な人気を誇ったアニメだけに、何であれ一度火がつくと、その勢いには凄まじいものがある。
■なにしろモデルの神社というだけで、(この鷲宮神社は)05年の初詣の参拝客が6万5千人だったのが、08年には30万人に急増し、一気に県内の初詣参拝客の神社ベスト3にランク付けされるまでになり、関係者を驚かす。そしてこのように、アニメファンがアニメのモデルになった舞台や背景の場所を訪れることを「アニメ聖地巡礼」と呼ぶのだという。
■とまれ、こうした動きに対応したのが鷲宮町商工会青年部だ。角川書店の協力で版権利用の許諾を得て絵馬をつくったり、原作者や出演声優なども参加する公式参拝イベント(07年12月)も開催したりしている。このイベントから初詣までのほぼ1カ月の間の町の経済効果は、約2000万円とのことだ。
■ところで、コミケに3日間で全国から55万人が参加したように、アニメやマンガのメディアコンテンツにもとづいた若者の旅文化をして「オタクツーリズム」と呼ぶのだという。若者の旅行離れが深刻ないま、若者をひきつけるアニメによって若者の旅文化が形成されつつあり、観光業界も若者の旅行需要の掘り起こしを狙う。
■そしてまた、聖地巡礼を通じてアニメファンやアニメオタクが地域と交流を持つことで、地域が潤い、多面的に地域や地域経済へ影響を与え続けることになればそのインパクトは決して小さなものとは言えない。その意味ではこの旅文化は大いに注目されてよい。
■が、如何せんアニメ聖地巡礼は、当該地自体が、アニメ関連意外のものによる魅力によって引き起こされた行動ではないところに問題がある。つまり地域が、自立的にこの観光現象をコントロールすることができないし、ブームがさってしまうと観光地として持続しなくなる可能性があるからだ。
■ただしそれを言うのは、いまはまだ早計かも知れない。元々これといった観光資源がない市町村でもアニメの媒介によって地域振興が成立する可能性があることや、地域と巡礼者(アニメオタク)双方にメリットがあるようなコミュニケーションの成立も不可能ではないからだ。
■そのためにも鷲宮町商工会と北大の共同研究は、そうしたネガティブな条件をクリアするための貴重な基礎情報となりうる。こうした共同研究も含め、アニメによる地域興しが新しい展開に入ったといえる。
※参考 北海道大学観光学高等研究センター「観光創造研究」より岡本健氏の論文/鷲宮町商工会HP/その他
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