■いや~、大変なにぎわいでした。会場は押すな、押すなの、半ば押し合いへし合い状態の大変な熱気。通路という通路は、歩くのもやっと(どうにかヒトが辛うじてすれ違えるような狭い通路です)。しかもその狭い通路のそこかしこにいくつも行列ができている。
■販売員の大きな声が響き、そこに注文をだしながらお金を手渡す客の声が被さり、そうした声という声が会場中から放たれてフロア全体が沸きかえっている。ヒトとぶつかりながら、押しのけながら会場通路を歩くと、香ばしい匂いやいろんな匂いが鼻孔をくすぐる。
■やはり人間の根元的な欲求の一つである「食欲」を相手にした一大デパート催事だけに、しかもたったの1、000円程度で、いかんなく日本国内のいろんな食の楽しみを思う存分味わえるのだから、そのお手軽な価格とも相まって押し合いへし合いの沸騰ぶりもうなずけるというもの。
■その催事とは今週の22日(火曜)、7日間の幕を閉じた京王百貨店(新宿)の一大名物催事「駅弁大会」。
さすがに京王百貨店の「駅弁大会」は全国に音に聞こえた名物催事だけに、選りすぐった全国各地の一品ともいえる駅弁が新登場も含めて、これでもか、というほど並び目移りすることおびただしい。
■しかも「対決シリーズ」として今年は牛肉の三つ巴として「牛肉対決」をうたい、山形県奥羽本線-米沢駅の王者「牛肉どまんなか」(売り上げベスト10の常連)に、兵庫県山陰本線-和田山駅の「但馬の里牛肉弁当 牛王」を再挑戦として、島根県山陰本線-松江駅の「およぎ牛弁当」には初参戦として挑ませ、話題をつくって販売をあおり、消費者の味覚までもあおる手練のわざ。
(島根県の隠岐島には、「牛の海泳ぎ」で知られる「潮凪牛」があり、その牛の肉を用いている。島根和牛です)
■会場にはローカル線の駅のホームの待合室をもじった造作の休憩所が数か所あり、そこに並んで腰を下ろした客が買ったばかりの弁当を食べている光景も認められ、いかにも身近な食、駅弁の人気を改めて思い起こさせます。
■この人気「駅弁大会」の開催は今年で43回目。正しい名称は「元祖有名駅弁と全国うまいもの大会」。
日本全国、北から南から集まった「駅弁」はその数95(うち空弁3含む)、ほかに全国の「うまいモノ」も並んでおり、こちらを含めると約200余りの美味しい全国の食が、しかも手軽な価格で一同に集結していました(数は、京王百貨店のチラシから割り出しています)。
■ミシュランともフランス料理とも、あの吉兆ともまるで縁のない「ご当地グルメ」の一大饗宴、そう京王百貨店のこの名物駅弁大会はいわば「B級グルメ」の日本版ミシュラン大会と呼ぶにもふさわしい……。
■そういえば京王百貨店はこの会場に、あのご当地グルメの祭典「B-1グランプリ」でお馴染みの富士宮の「焼きそば」を「富士宮やきそば」と銘打ち、京王オリジナル弁当として実演販売をしていました。
焼きそばはどこでも食べられるにもかかわらず、やはり「B-1グランプリ」の2年連続優勝が効いているのでしょうか、そばを焼く実演スタンドを前にぐるりと長い行列ができていました。
■この日の京王百貨店は「冬物の一掃セール」を開催してましたが、各フロアの客は少ない。しかし一階の化粧品や小物雑貨品売り場は七階の「駅弁大会」会場とはまたちがった混雑で行列ができており、こちらも熱気がありました。(一瞬、何事かと思いました)
■でもよく見ると、七階と一階では客層が明らかに異なる。いや、まるで違うのです。察するに一階の客層は普段の京王百貨店のお客といえるご婦人方のようでした。一方七階のほうはまさに駅弁ファンやシニアのご婦人が多かった。わざわざ電車賃を使ってまでして手軽に国内の食を楽しもうという人たちです。
これはやはり「駅弁大会」は京王百貨店の店舗としての実利を兼ねたファン作りの一環でもあるのでしょう。
■ただ休憩所にぞろりと並んで駅弁を食べている方たちの姿が多少気になりました。いくら休憩所をもじっているといっても、都心の百貨店のあの賑わいの会場で、たとえ駅弁であっても、どこかそそくさとした食事風景として目に映り、違和感をおぼえました。人前で、公の場で飲食するのをさりげないイメージで見せるというのは難しいものです。(机がないからかも)
■たまたま脳に関わる書物を読んでいた関係で、ヒトの根元的な快楽の一つである「食欲」のもつ凄さを、あの会場の熱気に触れながら思い出しました。
ところでなぜか「(販売が)九州NO1」の文字が網膜に焼き付き、脳内のドーパミン細胞を、つまり味覚が刺激されたのでしょうか、つい買ってしまいましたわたしも――熊本県八代駅の「鮎屋三代」という駅弁を。
(今回はコラム風にまとめました)
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