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地域興しの観光資源は「産業」がキーワード
2007年08月30日 14:27 更新

■産業の盛衰も見せる、映画「フラガール」
遅ればせながら昨年の映画祭を総なめにした「フラガール」をみた。映画は福島県の常磐ハワイアンセンター(現スパリゾートハワイアンズ)の誕生(昭和41年)をモデルにした実話である。

戦後の高度成長時代にあってエネルギーは石炭から石油への転換がはかられ本州一の出炭量を誇った炭坑は次々と閉山を迫られる。起死回生の新たな事業として経営幹部が思いついたのが温泉娯楽施設「ハワイアンセンター」の開設。基幹産業だった石炭業から観光・レジャー業への必死ともいえる一大転換である。

映画は炭坑町の娘たちが会社の募集するフラガールに応募してセンターオープンの初舞台を踏むまでが描かれる。ダンスとはまるで縁のない素人娘たちが見事なフラダンスを披露するまでの、さしずめジャパニーズ・フラ版「プロジェクトX」である。

一方、「ハワイアンセンター」は今風に言えばハワイが主題のテーマパークともいえる。そして、温泉娯楽施設「ハワイアンセンター」という発想は「逆転の発想」でもあった――それまで億単位の金をかけて捨てていた坑道に湧出する温泉を活用することになったのだから。

■近代産業の「産業遺産」が人気――世界遺産が火付け役
映画を透かして基幹産業ですら時代の波に翻弄されて衰退する姿をいやでも思いしらされるが、このところ、近代産業の遺跡と言われていた明治から戦前にかけて近代化を支えた全国各地の建造物や設備が一躍「産業遺産」として見直され、新たな観光資産として脚光を浴びている。

世界遺産に登録されたばかりの石見銀山などはまさにその代表的な例といえる。この8月の1日から19日まで同銀山を訪れた観光客は前年同期と較べるとほぼ倍増、坑道跡の有料施設への入場者数となると前年同期比で3.7倍と急激な増加を見せるほどで、まさに世界遺産効果といえる。

ちなみに現在、国内の世界遺産の数は14件(文化遺産11件、自然遺産3件)あり、世界ではその総数が851件になる。世界遺産はユネスコにより認定・登録されるが、今後はあまり増やさない姿勢とのことで、保全や管理が悪ければ登録の取り消しもありうる。単に景観的な美しさなどを訴えてもまず登録は難しく、環境や歴史、保護はどうかなど遺産の持つ意義付けが認定では重要視される。

話を戻そう。遺跡としての建造物や施設とは製鉄所や造船所を指し、ほかにも鉱山や鉄道、橋やダム、トンネル、発電所などがある。

このところ観光客でにぎわっているのが世界遺産登録をもくろむ群馬県富岡市の製糸工場だ。同じ関東では横浜市の赤レンガ倉庫がいち早くその資産価値を見いだし、建造物に手を加えて店舗やレストランの複合商業施設として再生させ、大変なにぎわいである。

こうした遺跡の先駆けとして全国区の人気で知られるのが北海道小樽市の運河倉庫、意外なところでは愛媛県新居浜市にある別子銅山の遺跡。

住友財閥(現住友グループ)の礎となった銅山だけに、銅山の麓には立派な温泉やレジャー施設を備えた壮大な鉱山のテーマパーク・マイントピア別子(鉱山観光施設)があり、賑わいを見せている。どちらかというと、鉱山のような施設は単に見るだけでリピートにつなげにくく観光客の減少に苦労しているところが多い。が、そこは住友の威信があるだけに毎年約30万人の客を集め、安定的な運営を見せている。

住友のような堅固なバッグボーンがあるのならともかく、こうした遺跡の資産転用には補修や復元にかなりの整備コストがかかる。その上所有企業にとってはノウハウをもたない観光分野への進出ともなるので、参入にはどうしても慎重にならざるを得ない。

そうした不安や気がかりを取りのぞいたのは「時の流れ」という時間の移り変わりだった。CSR(企業の社会的責任)の浸透や観光と縁の薄かった地域のPRとも相まって、自治体との連携で新たな観光資源としての取り組みが見られるようになった。

とまれ、こうした産業遺跡が脚光を浴びているのは観光に求められる目的が多様化し、観光地の要素に変化が生じつつあるからだ。特に中高年層には知的刺激に富んだ対象として注目を集め、前述の富岡の製糸工場を訪れているのは中高年のグループが大半である。訪れる動機は「学ぶ」ことにあり、豊かな自然やおいしい食事などの物見遊山一辺倒の旅行だけでは飽き足らない人たちが増えている。

こうした動きに拍車をかけそうなのが経産省の動きだ。「世界遺産」にならったのかどうかはともかく経産省は現在、全国の近代産業遺産の候補を公募し、その認定作業を進めており、早ければ9月中にも認定が決まりそうだ。

■あらたな地域興し「産業観光」の動き
近代の「産業遺産」とは別に、地域に根付く現役の企業や施設を新たな観光資源に取り入れ観光と縁の薄かった都市や地域に「体験型観光」として来訪者を集め注目されているのが「産業観光」だ。

もっとも「産業観光」自体はここ数年の動きなので言葉の明確な定義はない。そこで「産業観光」で逸早い動きを見せている東海地区の10都市が集まった「東海都市ネットワーク協議会」の説明を引用しておこう(筆者が多少、加筆)。

「産業観光とは、地域の産業活動やその歴史を『観光』という視点でとらえ、普段使われている商品や製品を作る工場、施設などの生産工程を見学したり体験したりしてその歴史を学び、『ものづくり』を通して人間の築き上げてきた産業文化への感動や共感を味わうことで、ほかに人的交流をうながす効果もある」

従来の工場見学や施設見学の進化・発展系と考えていただきたいが、単なる工場見学と同等視されては違うし、企業のPR活動と見られても困る。地域が連携して地域が保有する地域全体の産業の歴史や文化の姿を見せる点に特色がある。

「東海都市ネットワーク協議会」を構成する都市の一つである浜松市は、楽器やオートバイなどの世界的な企業が集まる都市としても知られるが、国内はもとより外国からも、観光コンベンションビューローを軸に「産業観光」でアジアから集客している都市でもある。

「ビジット ジャパン キャンペーン」で各自治体がアジア諸国に盛んなPR活動を行って成果をだしているのは知っての通りだが、「産業観光」を軸にしてのPR活動となると自治体の数も限られる。浜松市のケースではヤマハのピアノ工場や名物の「うなぎパイ」工場などを見て回るコースがあり、今年は1000人を目標においている。

また秋田県北部の地域ではリサイクルや新エネルギー産業を育てるエコタウン計画が推進されており、「環境都市」として生まれかわった都市の姿を「産業観光」にあてはめ集客をねらっている。

家電やハイプラスチックのリサイクル工場、電子機器から有価金属を回収する事業(アーバンマイニング、すなわち都市型鉱山)関連の工場、ほかにも風力発電施設などを利用して観光客を受け入れる計画で、官民の協議会と旅行会社との間で計画が進められている。

この地域にはかつての鉱山跡があり、その坑道を公開しているマインランド尾去沢(鹿角市)や明治期からの木造芝居小屋(小坂町)などの観光施設があり、あらたな観光資源として「産業観光」を組み入れる考えである。昔の鉱山と、現代の環境都市の姿で集客を図ろうということだ。

近代期の「産業遺産」といい、現代の「産業資産」といい、産業が従来の観光の枠を超えて有力な観光資源として注目される時代になっているのだ。

「産業観光」で注目したいのは、関わる企業側の負担を減らしたり、場合によっては(企業自らが)事業化でコスト回収できるような仕組みを設けたりできるように考えていることだ。現時点ではまだ試行錯誤の段階ではあるものの、資産の保護、管理の維持、投資などにかかるコストが大きいので一方的に企業だけに負担させるわけにもいかないからだろう。

いずれにしろ、そこまで考えるのは観光資源としての期待度もそれだけ大きいからで、現状の課題に対する解決策も含め各事業主体(国、自治体、企業など)がどのような対応や行動をとるべきかで中央官庁もすでに検討策で動いている。

国交省には「産業観光推進懇談会」が設置され、総務省、文化庁、農水省、経産省などの中央官庁も懇談会メンバーに加わる。他に経団連をはじめ観光や経済の各団体なども参加して「産業観光」を新たな観光の起爆剤にするための積極的な取り組みも動き出している。

新たな地域興し策として、「産業資源」がキーワードの観光や集客が活発化しそうだ。

※参考 『観光読本』日本交通公社編/日経新聞など


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