「キッズ」という呼び名はいまではすっかり定着しています。もっとも、いわゆる公的な場における定着で、通常日本人が私的な場で使ったり、子供たちを「キッズ」と呼んだりはあまりしてませんね。
公的と言ったのはメディアや企業などが使っているからで、いわゆる一種のよそ行き言葉なんですね。で、公と私の間には境界があり、この「キッズ」という言葉が公的には使われていても私的な部分までは入ってきていませんね。この先この境界がくずれて私的にも使われるようになるのかどうかはわかりませんが、日本人の感性には、私的に使うにはまだまだ合わないということです。
ところでこの「キッズ」という言葉がこのところ、英語圏では細分化され子供の年齢に応じて(市場)区分されているというのです。ちなみに英語圏では、1960年代には2歳から11歳までの子供を漠然とひとくくりにして「キッズ」と呼んでいたそうです。
それが最近では細分化が進み現在では5つの区分があるというのです。そのことを服飾史家でフレグランス文化の研究でも知られる中野香織さんが日経新聞のご自身のコラム欄でとりあげていました。(3月9日付夕刊)
0歳~3歳は「トドラーズ」、3歳~5歳は「プレスクラーズ」、6歳~8歳が「キッズ」、9歳~12歳が「トウィンーズ」、そして13歳~15歳が「ティーンズ」というのだそうです。
こうした各区分による「キッズ」市場はきめ細かな宣伝・広告戦略として大いに利用されているそうです。おもちゃ市場だけではなく子供服の市場ではそのために、子供のモデルが「ぎょっとするようなセクシーなポーズをとり、強いモード感を放つものが少なくない」と中野さんは書いています。
つまり市場の細分化でターゲットの絞り込みが明瞭化し、宣伝・広告に、より彩りの濃いといいますか、あるいはメリハリの効いたとでもいいますか、具体的な色彩を帯びた強い訴求が可能になり、その影響が子供たちにおよび、子供が「大人びた若者」になっているというのです。
細分化はマーケティングの常套的な手段ですけれども、こうして新聞に出たからには日本でも早晩この区分が取り入れられるのではないでしょうか。それがはたしてこの呼び方通りに区分されるのかどうかはわかりません。でも細分化は新たな消費市場の誕生を招来しますから、可能性は小さくはないでしょう。
それに乳幼児とか、幼稚園の年長さんとか、小学校の低学年・高学年とか、中学生とかいう現在の呼びかたではイメージの幅のひろがりが見こめません。ですから、宣伝・広告業界を筆頭に、流通業界や企業などが早晩飛びついてくるのではないでしょうか(でも「トドラーズ」という音の響きと赤ちゃんが重なりますかね。どうでしょう?)。
イベント業界ですと「キャラクターショー」や子供向けのイベントツールなどによりきめ細かな対応が求められることになるでしょうね。もちろんこのことは市場の拡大につながります。
中野さんのコラムの題は「モードの方程式」といいます。服飾史家ですからもちろんファッションに直接の関わりがあります。やはり人間、ヒトを年齢や感性で区分けするのはデザインコンセプトをはじめとしてファッション業界ではどうしても必要なのでしょうね。
ちょっと時代がさかのぼりますけれども日産の「「B-1」を生み出したコンセプターの坂井直樹さん。いまでもご活躍なさっています。坂井さんもファッション業界の出身で、坂井さんご自身が考案なさった人間のマインドテイスト(スタイル)を9つに分類した「エモーショナルプログラム」はキッズの年齢区分どころではなく、人間を年齢ではなく感性で区分けしてしまうという実に鮮やかな切り口(分析手法)の発見でした。
ブランド全盛のご時世とあって、ナイキの米国本社で300人のデザイナー相手に講演したり、最近ではレクサスの潜在購買層の分析をするなどその切れ味にはさらに磨きがかかり、広告業界や企業、デザイン分野でその分析手法が珍重されています。
その坂井さんの手法(プログラム)をあらわしたマトリックス(縦軸と横軸の図表)に接したときは驚きましたね(以前、すこしばかりお世話になりました)。年齢を超えた人間の感性が(その人の)ブランドや商品の好みにぴたりと当てはまるのですから。やはりファッション分野の世界で生きる人たちの感性のシャープさとは見事なものです。
「キッズ」の区分にファッション的感性が加味されると、その市場展開の広がりの幅はとどまるところなく拡大していく可能性があります。たとえば幼児が美容院でカットしたりするのは決して珍しいことではなくなりつつありますね。時代は少子化ですから、市場の創造・創出にあらゆる知恵が注ぎこまれることになりそうです。
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